『TAR』

待ちに待ったTAR。
ケイトブランシェットは、私が最も好きな女優さん。
最も好きな女優さんの一人、ではなくて、最も好きな女優なのでね、絶対見たいと思っていた。
女流指揮者の話で、それもベルリンフィルですって?
映画が始まった序盤の対談形式の公演シーンで、あまりに歴史の一部を語っている雰囲気で満たされていたために、実話なんだなと思ってしまった。
史実がそこここに織り込まれているのがまたその錯覚を強める。
完全に台本がケイトへの当て書きだったことを後から知りました。なるほど!と唸る羽目に。
映画は、女流指揮者ということへのフィーチャーというよりもただ、ほころびがいつもそばにあるのにまるで気付かずに傲慢になってゆく上り詰めた人間を描いています。
繊細な感性はあるけれども、音楽の巨匠たちに寄り添うようには周囲の人間には寄り添えない、高慢になっていく女性を、そうなっちゃうだろうなぁと納得させるだけの圧倒的な才能を、またまたブランシェットは見事に演じてくれました。
まあまあクラシックをかじって大人になったので、ノンフィクションだと思って観ている段階では、そんなに情報遮断されてた?と正直ショックを覚えておりましたが、リハの風景とか、楽譜とか、音とかとにかく痺れる要素がそこかしこに。
ターにひやひやしながらも、ターの衣装や仕事部屋のインテリアがシックで素敵で、こういう部屋にしたいのだよ…とか、やっぱり天井の高さは大事よねなんて、どこにも接点がないことなど関係ないとばかりに、ミニマリストに近付けた自画像を思い浮かべたりと、好奇心・知識欲を存分に満たしてくれる見事な物語でした。
ターはもう一度立ち上がろうとする女なのも、ブランシェットに当てただけある。
だからきっとこの映画は何度も見てしまうだろう。
ところで、劇中繰り返し出てくるマーラーは、父の大好きな作曲家で、休日の夜にはよくレコードをかけておりました。
改めて映画を振り返ると、認知症のいまの父にはもうマーラーは聴こえないのだろうか。
ふっとフレーズが流れてきたりするのかなぁ、なんて感傷的にもなるのでした。

