特捜部Q〜アサドの祈り〜

特捜部Qを私に教えてくれた人は、会社の同僚で、初夏の折コロナ禍で退職された。
本作は8作目で、私は図書館で借りているのだけど、第6作くらいからは、出るという情報を掴み次第、まだ購入前の段階で図書館にリクエスト予約でひたすらに待つ…そんな風に、ま、夢中である。
しかしながら、そんなポジティブワードを単純に置いていいの?と思うくらいには、どの回も重苦しい。
デンマーク警察の刑事が主役のサスペンス。
北欧ミステリーが流行り始めたのってどのくらい前だったろうね、と思いつつ、特捜部Qとミレニアムのシリーズが、私の触れた北欧ミステリーで、ほぼ同じタイミング。
どちらも同じ人からのお勧めで読んでみる気になった。
それまで、北欧に対して持っているイメージはさ、当然ながら税金めっちゃ高しの福祉国家。
老人の自殺者が多いけど、それは豊かさと比例するのかなみたいな、白夜、冬が長く、太陽の光を少しでも取り込むために窓が細長くて、家の中での暮らしがとても大事で、だから家具とかインテリアのこだわりも強い、おしゃれで、そして、太陽によっぽど焦がれたんだね、って感じに長身で、彫りが深い、男ならステファン・エドバーグ、ジョン・ボルグ、アッガー。ついでにオランダ人だけどエドゥイン・ファン・デルサール。
女性は当然、イングリット・バーグマン、グレタ・ガルボ。
この中で本作の国であるデンマーク人はアッガーだけだが、サッカー代表キャプテンはアッガーの次のケアーも本当に男前である。
とにかく美しい造形の方々を多く輩出した、まぁハイセンスなイメージしか持ってなかった。
この、特捜部Qを読み始めて、正直憧れる気持ちが一気に無くなった。
現実は実に痛くてヒリヒリしているようだった。
フィクションだろうと、リアリティあるこういう物語が生み出される土壌があるんだなと、やっぱりレベルが違う危険があるんだなっていうか、他国との距離が近い国と日本は違い過ぎるって、改めて思い知らされていたところだった。
行きたいなーっていう気持ちが消えて、それでも、政治や社会情勢を暴いているのかなと思わせる物語の数々には好奇心を掻き立てられ続け、ずっと続き心待ちにしながら夢中で読み耽る、そんなシリーズでもある。
そして感覚的には3、4年待ったこの第8弾。
それは、東日本大震災の影響もあってか、薄くなってしまった9.11を引き連れてくる物語だった。
過去の作品の中で、伏線が多々ある謎は多くとも愛すべき相棒たるアサドの過去がようやく詳らかになる物語だった。
その凄惨さというか、のっけから想像を軽く超えてきて、何度も吐き気が込み上げた。
そう、蘇ったのだ。 ビルに飛び込まされた旅客機の映像から始まる一連の記憶が。終結などしていないはずの今日に、最後と言うには躊躇われるが、最後の後藤さんの死までの記憶が。
あの日々、彼らの無事を祈った日々は、本当に戦慄していた。夜テレビで映像を見た後、眠れなくなった。風化などしようがないって思っていたのに、本を読むまで、封じこまれていたのだ。そのことに我ながら衝撃を受けた。
アサドの背負った過去は、言葉にすれば過去だけど、言うなれば現在完了形っていうか、過去の出来事が現在まで続いているっていうことよね。
復讐という言葉の重苦しさ、時は万能薬足り得ない状況がそこにある恐ろしさ。
何度でも、敵を倒せたからってその後は?と繰り返し考えてしまう過酷な試練がそこにはあって、これまで見聞きしたどんな復讐劇よりも、重苦しいものだった。
カテゴリを新設して、書評などという、畏れ多い(なんだろう、映画の感想を述べる以上の緊張感がある)と思いながらも決行したのは、私があの頃感じた恐ろしさを完全に忘れ去っていた事実に心から脅威したからである。
まだ、何も終わっていない。
本質が変わらなければ永遠に終わらない、そういう問題で、あの瞬間、対岸の火事じゃないかもしれないと、震え上がった事を、この後続く我が人生では、心に留めておきたいと思ったから。
毎回、気付きが多過ぎて、面白いとか面白くないとかじゃない、 全く別次元で対峙する羽目になる、そんな物語です。

